絶対に笑ってはいけないMRI
MRIを*はじめて受けてきました。
*前回の誇張とは違い、本当に初体験。ちなみにMRIとは、脳を輪切りにする検査です。
このMRIと言う検査は、なかなかに厄介で、20~30分ほど*大音量の筒の中でじっとしている必要があります。脳を地道に撮影するため、頭を動かしていけないのは勿論、口をモゴモゴしたり、深呼吸をするのも駄目だそうです。なにかの修行でしょうか。
*サイレンが道路工事の音量で鳴るイメージ。また、くしゃみなどしようものなら撮り直しになる。花粉症に優しくない。
大音量から耳を守るためか*ヘッドフォンを装着し、仰向けの状態でいざ筒の中へ。
*美しいピアノアレンジが流れていた。工事現場でリサイタルを聴くようなものである。一種の疑似現代アートを体感しているのかと錯覚したが、紛うことなく錯覚だった。ここは病院だった。
『目は閉じても閉じなくても良い』と言われたので、ギンギラギンにさりげなく瞳を全開にして突入したところ、目の前に*ぐでたまが見えました。
*たまごの黄身をモチーフにしたサンリオのキャラクター。やる気がない。
工事現場並の騒音でピアノが流れているだけでもシュールなのに*目の前にはぐでたま。しかも1体ではない。いくつものぐでたまが貼られ、今の位置からは見えない上部までところせましと貼られているようだった。
*目の前のぐでたまは「寝るのもめんどくさい」と言っていた。これは、ぐでたまによる婉曲表現であり「寝るな」と言う警告に違いなかった。
自分の置かれた状況のシュールさに思わず吹き出しかけた。が、今はMRIの真っ只中。身じろぐことは許されない。つまり、笑うことは許されない。――「絶対に笑ってはいけないMRI」が始まった。
…………
いい感じに*腕が痺れはじめたころ、私は笑いを堪えるため、騒音に耳を傾けたり、ピアノに耳を傾けたり、羊を素数で数えたり、今まで食べたパンの枚数を思い出したり、目の前のぐでたまを数えたりして心の平穏を保っていた。
*お腹の上に手をのせていたのですが、完全に失敗でした。横におろしておくべきでした。テストに出ます。
ようやく平静を取り戻した時、身体がガクン、と上に引き上げられた。どうやら筒の上部に突入したらしい。先程まで見えない位置にいたぐでたまも見えるようになった。
*「自由になりたい」と書いてあった。
*こちらのセリフである。
自由になりたいぐでたまは、いつもの黄身ではなく、たまごの寿司ネタを模していた。巻かれた海苔に手を当て、悲しそうに「自由になりたい」と呟く様は、まさに今、ベルトで固定され、大音量の中で身動きの取れない*我々の心を代弁しているかのようだった。真っ白に燃え尽きたボクサーより哀愁が漂っていたかもしれない。
*ほら誰もが二度見するよキミのことを。
笑いを堪えるため呼吸が浅くなりつつ、ピアノアレンジが西野カナの「トリセツ」になったりして心の笑いが有頂天を極めたころ、ようやくMRIが終了した。特に病気は見つからず、首の骨が逆に曲がっているだけだった。
翌日、見事なシックスパックになっていた。もし、あの日あの時あの場所で笑っていたら、こう言われたに違いない。